捕らわれた姫君
さァ!次にイキたいのはどいつだ?
「起きてください!ソニア!敵襲です!」

船の甲板に置いてあった樽に寄りかかり仮眠していたソニアにアルティミスが呼びかける、その呼びかけで奴隷時代の悪夢の底からたちまち意識を現実へと引き戻されるソニア、背中が汗でぐっしょりと濡れていた…昔の、あの夢を見る時は決まって中途半端な終わり方をする、いつも「彼」が自分の救出に現れるあの状況で目が覚めてしまい結局あの人の顔を見ることさえできないのだった、落胆し肩を落とすソニア。

「あ…あの、ソニア…どうしたのです?」

敵襲と言うアルティミスの言葉に動揺するでもなく妙に落ち着いたクールな表情で額にへばりついた前髪を指で横に流すソニア、そのうつむいた顔を遠慮がちにちらと覗き込むアルティミス。

「うん…なんでもない…それより、賊が出たか?」
海賊たちの奇襲!
ソニアがそうアルティミスに問いかけたその時!船の両サイドから戦場では聞き慣れた怒号や武器の交わる音が聞こえてきた!それは目立たない小船に乗った海賊たちによる奇襲だった!ソニアは嫌な夢を見たあとの気分の悪さを振り払うかのように素早く身体を起こし立ち上がると傍らに置いてあった銀の槍を力強く掴みあげる、そしてアルティミスにこう尋ねた。

「多数の小船による挟撃!?見張りは何をやってた!こんなに接近されるまで誰も気づかなかったのか?」

「どうも…見張りの者が眠りこんでいたようです、ごめんなさい!」

申し訳なさそうな表情で背の高いソニアの目を下から見上げてくるアルティミス、ソニアには彼女を責めるつもりはなかったが王族の護衛ともあろう者たちがなんとつまらない失態を犯すのか?こんなコトなら多少眠くとも自分が寝ずに番をするべきだった、護衛の騎士たちの無能さにあきれるソニアだったが突如沸き起こったこの危機的状況を場数を踏んできた彼女は素早く正確に見てとった!そして近くで指揮をとっていた騎士団長にこう叫んだ!

「全員を船尾へと移動させろ!船の後部は高さがあるから中央に比べれば敵が取り付きづらい!この場に上がって来た敵は全て私が引き受ける!」

言うが早いかソニアは槍を構え船べりへと駆けてゆく!そして次々とはしごを使って船に取り付きよじ昇ってくる筋骨隆々の海賊たちの胸板を槍でリズミカルに次々と突き刺し殺してゆく、そして前蹴りで楽しそうにはしごを蹴り落としながら暗い表情で従者たちに囲まれているアルティミスに向かって笑顔で呼びかける!
オラオラーッ!!
「心配するな!こんな海賊どもに遅れをとる私じゃあない!」

奴隷の身から旅の傭兵となったソニアは今では戦場の死神とまで呼ばれる熟練の戦士へと成長していた!大人になり赤闘族が持つ驚異的な身体能力も開花しきっており並みの武人ではたとえ何人でかかろうと彼女の身体にかすり傷ひとつつけることはできはしない。

この戦いに敗北があるとすればそれは頼りない従者や護衛の騎士たちがアルティミス姫を守りきれなかった時だけだ、残念なことにほどなく「その時」はやってきてしまうのだが…。

闘いが始まってから何分くらいたっただろうか?群がってくる海賊たちを赤子でもあしらうかの様に次々と何十人も槍で串刺しにしていったソニアだった…戦いは順調だ!残りはせいぜい12〜3人と言ったところか…敵の腹から血まみれの槍を引き抜きながらソニアが勝利を確信したその時である!
捕らわれた姫君
「女ァッ!そこまでだっ!武器を捨てろ!」

ソニアの背後から野太い叫び声が聞こえて来る、何事かとその声の主を振り返りその場で動けなくなり固まってしまうソニア!

「早く捨てろ!コイツが見えねェのか?逆らうつもりなら今この場でお姫さんを殺すぞ!」

アルティミスが背後からガタイの良い海賊に羽交い絞めにされ別の海賊たちが彼女のか細く白い首に短剣を押し当てていた。

「ソニアッ!!ソニアァーッ!!」

悲痛な涙まじりの声でアルティミスが叫ぶ!!
彼らは首を掻き切るような仕草でアルティミスの喉元に短剣を這わせると怒り心頭といった感じでソニアを睨みつけて来た、目の前でたった一人の女戦士に仲間を何十人と殺されたのだ頭に来ないはずがない。

「アルティミス!?くそッ!!護衛たちはどうした?」
海賊たちに制圧されたパノルムス船!
ソニアはちらりと海賊たちの背後を盗み見た、護衛の騎士に生き残っている者がいないか確認したかったのだ…だがソニアの希望を裏切り護衛たちは隊長や従者を含めてすでに全員が海賊たちに殺されてしまった後のようだった、アルティミスの背後で身ぐるみを剥がれ海に投げ込まれる騎士たちの姿が見える…ソニアは問題なく圧倒的な強さを見せていたのだがソニアの力の届かぬ場所でパノルムスの船はすでに海賊どもに完全に制圧されてしまっていた。
海賊たちに捕縛される女戦士!
「なんてことだ…こんな馬鹿な話があってたまるか!」

ソニアはそう毒づくと手に持っていた銀の槍を勢い良く甲板へ突き立てるとその場にあぐらをかいて座り込んだ、半ば癇癪をおこし顔を真っ赤にして海賊たちを睨みつけるソニア、どうやら護衛の騎士たちの無能さは彼女の予想の斜め上を行っていたらしい、あまりに長い間平和を享受し海賊退治は傭兵たちに任せきりだったためパノルムス王国の騎士たちは戦いというものを忘れ弱体化してしまっていたのである、弱肉強食の世の中では平和すぎるのも考えものであった。

「よ〜し!よし!聞き分けのいい女は長生きできるぜェ!」

海賊たちは下品な声でゲヘゲヘと笑うとソニアたちの両手を縄で慣れた手つきで固く縛り上げる、両手を縛り上げられ甲板に並んで座らされたソニアとアルティミス、海賊たちの本船がパノルムスの船へと隣接する、そしてその船から渡された木製の足場の上を海賊のリーダーらしき男がゆっくりと歩いてきた。

カツーン…カツーン…カツーン…

男がパノルムスの船に乗り込むと同時に彼が履いているブーツの音が甲板全体へと響き渡る、ついに足音が止み二人の前に黒いマントを羽織った海賊たちのリーダーが現れた、そしてソニアたちに向かってこう言った。

「陸地ならいざしらず!海における戦いではオレたちに分があったようだなァ!騎士どもも腕が立ったのは近衛らしい1〜2人だけで残りはザコばかりだったそうだぜ!お姫さん♪」

殺された護衛の騎士、従者たちを更にムチ打つその言葉に怯えていたアルティミスの顔に小さな怒りの表情が混じる、殺された者の中にはアルティミスと毎日のように顔を合わせていた者もいたのだ!

「お黙りなさい!海賊!立派に戦って死んだ騎士を侮辱するコトはこのアルティミスが許しません!!」

普段の優しい彼女からは考えられない激しい言葉と口調に海賊たちよりも隣に座らされていたソニアの方が驚いたくらいだった、だが海賊のリーダーと思われる男は余裕の笑みでアルティミスを見下ろすと吐き捨てるようにこう言い放った。

「さすがは王族!と…言いたいところだが、アンタも自分が置かれている状況がわからぬほど馬鹿ではあるまい!死にたくなければ大人しく我々に従うことだ!」

その言葉を聞くとアルティミスは悔しそうに目に涙を溜めてうつむいてしまう、こんな状況では一国の姫君といえどそこらの村娘と何ら変わりはしないのである、姫君を屈服させ満足したようにソニアに視線を移した男の表情から余裕の笑みが消える…まさか、といった驚愕の表情が男の顔に浮かんだ。
ソニアの正体に気付いた海賊の首領
「こいつぁ…驚いたぜ!おっかねェバケモンが甲板で暴れてると思えば…この女!レッドソニアじゃねェか!!」

海賊のリーダーはソニアの赤い髪や身に着けている装備で彼女がレッドソニアであると気がついたようだった、その言葉を聞いていた海賊たちの間に驚きの声があがる。

「レ…レッドソニアだって?この女が?」

「戦場で目を合わせたら必ず死ぬと言う噂の…」

「戦場の死神?」

ソニアはこれまでに五十を超える戦場を傭兵として渡り歩きその全ての戦いに勝利し生き延びてきた、絶望的な状況を覆すその勇猛さと鬼神の如き戦いぶりは傭兵を生業としている者の間では知らない者はなく「戦場の死神」の名声となり語り継がれ恐れられているのだった。

しかも噂によれば…彼女はあの伝説の戦闘種族「赤闘族」の出身であり人外な「力」を有しているとも言われている、赤闘族には生命の危険を感じるほど追い詰められた時に爆発する「潜在能力」があるらしくそれが発動するとウソか本当か?剣や槍ではキズひとつつけることはできず並みの武器では絶対に殺すことはできなくなると言う話だ。

レッドソニアの噂の中にはとても人間ワザとは思えぬ戦いの噂もいくつかあり海賊たちが恐れていたのは彼女の肉体に流れる赤闘族の血の力であった!たちまち周囲の海賊たちからいやらしい薄ら笑いが消え去り表情が強張ってゆく…パノルムスの王ですら深く信頼し国の大事とたった一人の愛娘を託した伝説の女戦士!それがレッドソニアだった!

「その通りだ!今までこの私と二回以上も武器を合わせることができた者はいない!オマエたちは死ぬ!決してかわすコトのできぬ死神の槍によってな!」

そのソニアの言葉にたちまち海賊たちの間に動揺が走る、レッドソニアを自分たちの船に乗せると言うことは海賊たちにとっては不吉な死神を船に招き入れるに等しい行為だからだ、ソニアはこのチャンスを逃さなかった!すかさず目の前のリーダー格の男に対しほとんど脅迫に近い交渉を始める!

「死神の名は伊達ではないぞ!本気でこの私を怒らせて生きていられる者などいない!お前たちも覚悟することだ!」
海賊たちを威圧する戦闘姫!
常に海の上にあり「死」と隣り合わせの生活を送っている海賊たちにとってたとえつまらない迷信の類であっても危険を呼ぶ恐れがあるのならそれにはできる限り近づかず避けたいところだったのだ。

「お頭!どうするんです?オレたちゃ厄介ごとはごめんですぜ!」

「うう〜む…」

そう部下に問い詰められたリーダーは困った顔になり腕組をすると考えこんでしまった、海賊たちの目的はアルティミス姫にある、生け捕りにしてメッシーナとシラクサの同盟軍にパノルムスに対する人質と称し高値で売り渡すつもりだったのだ。

いっそのことこの場でレッドソニアだけ海に放りだしてしまう方が安全かも知れない…だが男は大勢の部下をレッドソニアに殺されていた、残った部下の手前もある!臆病風に吹かれて彼女だけ簡単に解放すると言う訳にはいかないのだ!深く考え込み口を閉ざしてしまった海賊たちのリーダーにソニアはこう持ちかける。

「おまえたちはアルティミス姫を同盟軍に売るつもりだな、身代金が目的なのだろう?姫の貞操と命の安全を保障するならこの私を好きにして構わんぞ!」

この思いもよらぬ死神からの提案にリーダーを含め海賊たちはかなり驚いた様子だった、敵の手中に落ちはしたが交渉のイニシアチブは完全にソニアのものだった!女が男ばかりの海賊に捕まったなら当然のことだが犯され輪姦される危険がある…自分はそういうことには慣れきっているしどうでもいい、そんなことよりも肝心なのはアルティミスだ!一国の姫であるアルティミスの貞操はどんなことがあろうと守り抜かなければならないのだ!ソニアは心の内で勝利を確信すると畳み込むように言葉を続けた!

「ただし!お前たちが私との約束を破ったその時は…わかってるな?」

場をうまく収めるきっかけを得た海賊のリーダーは軽く安堵すると喜んでこの提案に乗って来た、今や完璧にソニアの狙い通りにコトは運んでいた。

「いいだろう…アルティミス姫の貞操は保障しよう!その代わり!お前にはこれからオレたち全員の相手をしてもらおう!同盟軍の元にたどりつきアルティミス姫を引き渡したならその辺の小さな島にでも解放してやる!後は好きにするがいい!」

隣で交渉の内容を聞いていたアルティミスはようやくその事態を飲み込んだのか目に涙を溜めてこう叫んだ。

「そ…そんなッ!私のせいでソニアが!そんなの!!」

ソニアはこれから自分の代わりとなって無抵抗のままよってたかって乱暴されるのだ!男性経験があるなしに関わらず女が男に成すすべもなく乱暴されるのはこのうえない屈辱である、ソニアのように身一つで生き抜いてきた自立心の強いプライドの高い女性であれば尚更その屈辱は強いはずだ、ソニアは泣き崩れたアルティミスの耳元にそっと口を寄せるとこう囁く。

「…スキを見て…必ず助けに行く…私が傍にいくまで辛抱しろ」

ソニアはアルティミスの安全を確保できたことで余裕の笑みを浮かべていた、大丈夫!私のコトなら心配いらない!言葉こそなかったがソニアの笑顔は自分の無力さを嘆き悲しむアルティミスに優しくそう告げていた、その後ソニアとアルティミスは海賊船へと移された。

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