スキピオとの会談を終え、カルタゴの王城へと戻ったハンニバルを出迎えたのは彼女の妹「マゴ」であった、イタリアの長靴の中の戦いでは女戦士の軍団を従えハンニバルと共に戦った歴戦の勇者でもある、彼女は巨大な戦象から降りてきたハンニバルの前に跪くと静かな声でこう言った… 「姉上…悪い知らせがございます。」 それを聞いたハンニバルは眉ひとつ動かさずにこう答える。 「話してみろ、なの」 マゴの話によればヌミディアの騎兵2000を連れてカルタゴ軍に参戦したはずのシファチェと彼の部下…騎兵たちの姿が今朝方からまったく見当たらぬとのことであった。 「裏切られた…か…ローマとの決戦で騎兵の数が減るのは純粋に痛手だ、恐らくはマシニッサと彼に従うヌミディアの精兵に恐れをなしたのだろうが……ヤツがどこへ逃げたか検討はついているか?」 マゴはハンニバルの表情を上目使いで伺いながらこう続ける。 「信頼のおける部下に調べさせたところ南の町、ハドゥルメトゥムの港にて大量の食料を調達した形跡があったそうです、町民から聞いた話によればシファチェとその兵の逃亡を手助けしたのは海賊であった…と。」 あまり感情を感じさせない氷河のような青い瞳に静かなの怒りの火を灯したハンニバルはこうつぶやいた。 「フン…なるほど!海賊どもを頼ったか!この地中海で2000もの人馬を運搬できる数の船を用意できる勢力があるとすればそれはアイツらだけなの…なァ?マゴよ!」 ハンニバルのその言葉にマゴはやや俯くとこう答えた。 「…キリキアの海賊」 「おのれ…シファチェ!このハンニバルを謀った罪は重い…この闘いを終えたなら必ず償わせてやる…貴様の命をもってな!」 と、そこへまだ幼い少年とカルタゴの数人の男たちがやってきた、少年はこのカルタゴの王であり周囲の男たちはカルタゴの元老院議員である、カルタゴ王はこう叫んだ。 「ハンニバル!ハンニバル!早くローマをこのカルタゴの土地から追い払ってくれ!」 王と言ってもカルタゴの実権はハミルカルとハンニバル母子が握っている、なのでこの子供は形だけの傀儡である…元老院の議員たちもそれなりの権力は持っているものの実際、任されているのは国の小さな祭事程度でハミルカルが支配する今のカルタゴにとって形式的な存在に過ぎない。 |
「大丈夫です、王さま、他のすべてのことは貴方と元老院の議員さまに任せます…ですが、剣で決することに関してはどうか!我等バルカ一門に任せて頂きたい!」 ハンニバルは不安げな表情で彼女を見上げる少年の頭にそっと手を乗せ少年に向かい優しく微笑んだ…だが!周囲の議員たちがハンニバルに対しこう捲くし立てる! 「同盟を結んでいたハズの元ヌミディア王…シファチェが雲隠れしたそうじゃないかッ!この大事にハミルカル様も不在で、ハンニバルよ!本当に…全てお前に任せて大丈夫なのだろうな?」 カルタゴの天敵であるローマ軍がやって来る!不安で怯えきっている議員たちはハンニバルに詰め寄るとそう問い詰めた!その無礼な態度に対し、そばで様子を見ていたマゴが声をあげる! 「議員どの!カルタゴ最強の戦士であるハンニバル様に対し…大丈夫か?とは!少しばかり無礼ではあるまいかッ?」 「マゴ殿、ハンニバルはこれまで騎兵の機動力を駆使して戦に勝利してきた!だが今回はその騎兵が足りないのであろう?だから大丈夫なのか?と聞いておるのだッ!」 「ム…そ、それは…」 シファチェの逃亡によりローマよりも多くなるはずであったカルタゴの騎兵の数はいまやローマに劣る、ハンニバルが考案した得意の包囲作戦が機能しないのではないか?議員たちはそう言っているのだ、言葉に詰まったマゴは姉のハンニバルに顔を向けた、するとハンニバルは… 「まだ手はある!いつ…どこで、どのタイミングで剣を使うかはこの私が決める…議員殿!これ以上私のやることに対し口を挟むなら…」 氷のような青い目を細めたハンニバルの表情には有無を言わせぬ殺気が篭っていた!これ以上つまらぬ口出しするなら死を覚悟せよ!そう言わんばかりの無言の圧力であった! 「う…わ…わかった!それではハンニバル将軍!くれぐれも頼むぞ!」 |
その圧力に負けた議院たちは少年…カルタゴ王の肩に手を回すと彼を連れてそそくさとその場を立ち去って行った。 「無能なブタどもめ…無礼にも程がある!」 尊敬する姉…ハンニバルを侮辱され怒りの表情で体を震わせるマゴ、そんなマゴにハンニバルが声をかける。 「マゴ!戦士たちを呼べッ!カルタゴの宮廷に散らばるすべての女たちを召集するのだ!指揮はお前に任せる!」 「ハッ!ただちに!」 普段はカルタゴの宮廷に仕えている侍女たちはすべて、ハンニバル子飼いの女戦士である!イタリアの長靴の中の戦いではハンニバルと共に戦った古参の女勇者たちだ!その数15000!それぞれが剣術の達人であった! |
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