雷将ハミルカル!
ハミルカル・バルカ
ここはカルタゴの王宮の一室、カルタゴと言う国は巨大な軍艦を擁する海軍が非常に優秀であり地中海ではイタリアの新興勢力であるローマを凌ぐ巨大な軍事力で有名だった、海洋民族であるフェニキア民族の船を用いた通商を継承したカルタゴ人は優れた農園の経営能力も相まって繁栄を極めた、世界の富がカルタゴに集まって来ていたのだ。

豪華な美術品が並ぶ立派な部屋の大きなベッドの上に一人の女性が薄着で横たわりワインを飲んでいた、りりしい顔立ちの女性で歳は30代前半といったところだろうか?美しい紫色の髪をしたこの女性の名はハミルカル・バルカと言う、ハンニバルの母である。

彼女の家、バルカ一門はこのカルタゴの名門貴族でありハミルカルはその富と権力でスパルタやヌミディアと言った諸国の傭兵達を全て懐柔しカルタゴ王を含め支配していた、もちろんハミルカル自身も娘のハンニバルに劣らぬ戦術家であり彼女のローマとの戦いの歴史を知る傭兵たちからは一目置かれていたのだ。金で雇われている傭兵たちの心は変わりやすい…そんな何十万と言う傭兵たちをまとめあげる為には名門貴族と言う肩書きや財力のみならず彼らを心服させるだけの実力とカリスマがなければならなかった。

ハミルカルやハンニバルの母娘には生まれついての卓越した戦術センスと人心を掴む魅力があった、この二人であればこそカルタゴと言う巨大な生き物を飼いならすことが可能であったのだ、恐らく今のカルタゴを彼女たち以上にまとめられる人間はカルタゴ王を含めどこにも存在しないだろう。
偉大なる戦術家!ハミルカル・バルカ!
「ハミルカル様…おくつろぎのところ、失礼します」

と、ベッドの上で窓の外の景色を眺めながらくつろいでいたハミルカルの前に皮の甲冑をつけた女戦士が現れ声をかけた、彼女はベッドの端まで来ると両足を揃え軽く頭を下げた。

「先刻、ハンニバル様が偵察より戻られました、偶然出くわしたキリキアの海賊どもと一戦交えられたご様子で…お身体が酷く汚れておりましたので取りあえず浴場へご案内しました。」

ハミルカルは特に表情も変えず彼女の召使いと思われる女戦士の報告を聞いていた、ハミルカルが心配していたローマ海軍の動きは特になかったようだ、ローマ人は海が苦手だし中継点となるシチリア島の王たちは皆ローマでもカルタゴでもない中立の立場を保っている、地中海を越えてカルタゴに攻め入るのが難しい以上は膨大な時間をかけても陸から攻めて来るつもりなのだろう…一時はアルプスを越えローマ本国まで攻め入り大暴れした娘のハンニバルを押し返すほどの希代の名将スキピオが現れたローマは以前の消極的な持久戦法は廃止し次第に攻めの姿勢になって来ていた。

「ご苦労!下がって良いぞ!ふん……ローマめ、海戦は避け得意の地上戦で真っ向から総力戦を挑むつもりか?面白い…!受けてたとうじゃあないか!」

バルカ一族最強と謳われたハンニバル将軍を打ち破る能力を持つ将軍とカルタゴに比肩するほどのパワーを付け始めた新興国家ローマをハミルカルは内心でひどく恐れていた。

「シチリア島にローマに攻め込む中継点となる軍事基地でも築くきっかけがあれば良いのだがな、パノルムス王には父上の代から通商の関係で世話になっている、できることなら無理強いしたくはない…カルタゴからローマへの海路を開くに何か良い手立てはないものか?」

ハミルカルがそう思案しているところへ浴場で身体を洗い清めたばかりのハンニバルがやって来た。

「母様!ただいま戻りました!なの!」

相変わらず甲冑を着け武装したままのハンニバルがアルティミスとレッド・ソニアの二人を伴いハミルカルの部屋へとやって来た、ハミルカルはハンニバルに対し軽く目を閉じてうなづくとハンニバルの背後に立っている二人へ視線を移した。

「後ろの二人は何者か?」

ハミルカルの良く通る声が部屋にこだまする、その問いに対しハンニバルが口を開く。

「こちらはパノルムス王からの使者、アルティミス姫…それと姫の護衛!女戦士レッド・ソニアでございます!母様♪」

「レッド・ソニアだと?」

ハンニバルのその言葉に一瞬ハミルカルの瞳に怪しい光が宿る!
ガチレズ!
アルティミスを庇う様に立つ護衛の戦士、体格の良い赤い髪の女をハミルカルは興味深そうにまじまじと見つめた、まるで全身に絡みつく蛇のようなハミルカルのねちっこい視線を受けたソニアは妙な気分になり軽く身震いした。

(な…なんだ?敵意を感じるワケじゃあないが…この女の視線はなんだか、イヤな感じだ…)

「シチリア島から使者として来たのか?ご苦労であった!そちらの金髪の女性、そなたがアルティミス姫か?賊の動きが活発で危険なこの時期に王の娘を直々に使者としてよこすとは…パノルムスで何か問題でも起きたのかな?」

ハミルカルから声をかけられたアルティミスはススッとソニアより前に素早く歩み出るとスカートの裾を両手で持ち上げ軽く会釈をし笑顔でこう返事をした。

「お初にお目にかかります!ハミルカル様!」

地中海における海戦でローマ軍を散々に痛めつけた雷将(らいしょう)ハミルカルの名は非常に有名でありアルティミスも彼女の戦いの噂をまだ幼い頃から何度も聞かされていた、アルティミスは早速父王から預かった書簡をハミルカルに手渡す。

「フム!遂にシチリア島内で戦いが起きたか、いつかはこういうことも起きるだろうと思っていたが…この紛争のタイミングはパノルムスにとってもカルタゴにとっても大きな利益となるぞ!」

書簡を読み終えにこやかに笑うハミルカルにアルティミスが訊ねる。

「どういうことですか?双方の国の利益になる…とは?」

「簡単なことです!アルティミス姫!私は以前よりシチリア島内に我が軍が駐屯する巨大な軍事基地を建設したいと思っておりました!」

二人の横で会話を聞いていたハンニバルがクスリと笑ったのをソニアは見逃さなかった、このカルタゴに到着したその時からなんとなく嫌な予感はしていた!両国の中間に位置するシチリア島をカルタゴが制すれば地中海の制海権は完全にカルタゴのものとなる!これを期にアルティミスの祖国パノルムスの国はローマとカルタゴと言う大国同士の武力衝突に巻き込まれていくことになるのだ!

「よろしい!国王にこたびの件を進言しただちにシチリア島に軍を派遣するように頼んでみましょう!指揮はこのハミルカルが執ります!」

「ああ!感謝致します!ハミルカル将軍!」

握った拳を力強く胸に当て自身たっぷりにそう告げるハミルカルにアルティミスはホッとした様子で嬉しそうにそう答えた、パノルムスの土地の一部をカルタゴの軍事基地に差し出さなければならないとは言え今は国が滅びるかどうかの瀬戸際である!この程度の条件で滅亡を回避できるのなら安いものであった。
正直に言えばアルティミスはこれほどアッサリと軍隊の派遣を承諾してもらえるとは思っていなかった、しかし!その喜びはハミルカルの次の言葉で完全に打ち消された!

「それから…シチリア島への援軍派遣の交換条件として、軍事基地の建設とは別にもうひとつだけ!姫様と…後ろの護衛の方二人に飲んで頂きたい条件がございます!」

ハミルカルとハンニバル!二人の母娘は鋭く細めた獲物を狙う蛇のような瞳でそれぞれアルティミスとソニアの顔をジッと見つめてきた、心なしか二人の頬が桃色に染まっているような気がした、二人の熱い視線に寒気を覚えるアルティミスとソニア。

「と…申しますと?一体…どのような条件でしょうか?」

交換条件の追加と彼女たちの熱い眼差しに困惑したアルティミスはどのような条件なのか恐る恐るハミルカルに訊ねた。

「簡単なことです!今日から3日間の間お二人に私たちの肉奴隷になって頂きたいのです♪そう…簡単に言えば…ペットです♪♪」
肉奴隷になるのよ♪
実に楽しそうにそう告げたハミルカルの表情とその言葉にアルティミスの表情が凍りつく!何を言われたのか良くわからない…3日間だけ奴隷になれ!そう言われたような気もする…この人は一体何を言っているのか?王族の娘、姫である自分に奴隷になってくれだなんて!何かがおかしい!狂っている!頭が混乱して返事もできないアルティミスにハンニバルがこう言葉を投げかける!

「ベッドで私たちを喜ばせるの♪それがイヤだと言うならパノルムスへの援軍の話は取り消しにさせてもらうの♪船はくれてやる!二人でとっとと引き上げるがい〜の♪」

アルティミスはその言葉で全てを理解した、彼女たちは女性同士のそういった性癖を持っておりアルティミスたちに肉体で奉仕をしろと迫っているのだ!

「そ…それは…」

アルティミスはいまだ処女であった、王の娘だから正式な結婚相手が決まるまでは乙女の純潔は守らねばならないと言うしきたりがあった、しかしそれ以上に処女は自分で選んだ殿方に捧げたいと願っていたのだ。

「わかりました…3日間だけあなたたちの奴隷になります、しかし…」

アルティミスはその場で振り返ると後ろにいたソニアの顔を見つめる、ソニアはそんなアルティミスの気持ちを感じ取ったのか笑顔でこう答えた。

「アルティミス…このレッド・ソニア!アンタの護衛を引き受けた時からあらゆる危難は覚悟のうえさ!乗りかかった船だ、最後まで付き合ってやるよ!」

「フフフ♪決まりだな!」

ハミルカルは満足そうに笑うと召使いの女戦士を呼びよせ全員分の食事の支度をするように告げた。

「船旅で疲れているだろう?今夜一晩は自由な時間を与えてやる、遠慮はいらんぞ!ゆるりとくつろぐが良い!」

アルティミスとレッド・ソニアの二人にはその夜の食事が最後の晩餐に思えたに違いない。

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